小説やドラマが面白くなる~悪魔の証明とアリバイ

捜査法的な考え方
犯罪捜査

悪魔の証明とは

悪魔の証明とは、「ある事実がないことを証明する」ことで、証明がほぼ不可能なことを強いられることをいいます。

ある事実、例えば、「AはBから100万円を借りたことがない」ことを証明しなければ、その事実があったと認定されることです。

仮に、「Aは、資産家でお金に不自由していなかったから、Bからお金を借りる必要性がなかった。」とか、「Aは、100万円を必要とする出費や買い物を、当時していなかった。」とか、「Aは、そもそもBとは長年連絡を取っていないから、貸し借りの話などできるはずがない。」とか、主張したとしましょう。

それでも、「Aは、密かにBと連絡を取って、家族に知られたくない100万円のお金を必要としていたかもしれない。」可能性も皆無ではありません。

なぜなら、上にあげた「AがBから100万円を借りることはありえない。」という主張や証拠は、しょせん、間接的な証拠にすぎず推測は成り立っても、「AがBから100万円を借りていない」という決定的な証拠にはならないからです。

360年もの間、名だたる数学者が挑戦しても解くことができなかった最後の難問「フェルマーの最終の定理」は、「xnyn = zn nが3以上の自然数で、0 でない自然数 (xyz) は存在しない。」というものでした。この命題が真実であることを誰も証明できなかったのです。

数学者アンドリュー・ワイルズは、1993年(補正1995年)に、この難問を証明することに成功しましたが、7年もの間、秘密裏にこの問題の解決にのみ没頭したという逸話は有名です。

完全な証明、解を求められる数学において、エンドレスに存在する自然数があるにもかかわらず「存在しない」ことを証明することは、悪魔の証明以外と言えると思います。

背理を用いることによって証明したようです。

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立証責任

一方、Bからは、「Aが100万円を私から借りた。」という事実、存在を証明することは容易です。

お金を貸した人は、返してもらう必要性があるため、借用書などを持っています。何よりも「事実の不存在」はあらゆる「存在の可能性」を否定しなければならないのに対して、「事実の存在」は「ただひとつの事実が存在する」ことを証明すれば良いだけだからです。

つまり、100万円の貸し借りの勝敗は、Bが、「Aに貸した」ことを証明すれば良いのであって、Aが「借りていない」ことを証明する必要はないことになります。

これが、立証責任と言われるものです。

どのような場合に、どちらが何を証明する責任があるか、これを法律の条文の要件ごとに分解して明らかにしていくことが「要件事実論」と言われるものです。

法律の世界、世の中の現実においては、真偽不明なできごとは山のようにあります。それでも、裁判では事実認定を行わなければなりません。フジイは、相撲の行司に似ていると思うときがあります。行司は、勝敗を決しなければならず、「同体」判定はできないのです。

裁判において、立証がなされなかったとき、どちらの勝訴となるか、決めておく必要があります。

つまり、要件事実によって振り分けられた証明責任を果たせなかったとき、真偽不明となったときは、

その責任を負わされた方が敗訴となります。

先ほどの例でいうと、Bは100万円の借用書を提出したが、Aが書いたものか不明であり証明に失敗した場合、Aは借りたことがないことを証明しなくても、Bは敗訴となります(現実の裁判では、その他の証拠も総合して認定することが多いです)。

アリバイとアリバイ崩し

フジイは、犯罪捜査における容疑者の「アリバイ」も、悪魔の証明の裏返しだと思っています。

犯罪捜査は、多くの容疑者の中から、犯行当時「アリバイ」のある者を外していき、犯人の輪を縮めていきます。

例えば、殺人事件において、犯行現場に死亡時にいた者が犯人なのですが、それが分からないから容疑者を洗っていくことになります。つまり「犯行現場にいなかった」という証明ができないから、「当時は、別の場所にいた」というアリバイが必要となってくるのです。

「別の場所にいた」、つまり「犯行場所にはいなかった」という「不存在」を裏から証明することになります。別の場所にいた人間が、犯行を決行することは不可能だからです。

推理小説は、ここから巧妙な「アリバイ崩し」へと持って行きます。

完全なアリバイのある者が、実は犯人だった、という筋書きはよく見かけると思います。

フジイも推理小説が大好きなので、とてもうまくアリバイ崩しがされると驚嘆します。

手法はいろいろあり、死亡時間や場所を変えたり、アリバイが偽装だったり、不可能と思えた現場に行けたり、とかです。

以下は、少しネタバレを含みますので、いちから読みたい方は飛ばしてください。

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それぞれ手法は違うけれど、どれも名作で、一種のアリバイ崩しだと思います。

映画にもなっているので、見やすいですが、小説で読む醍醐味も堪えられません。

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