【知れば間違えない】信頼できない語り手~交通事故の場合

自転車法的な考え方
自転車

ある交通事故

事件の経過

交通事故について、有名な最高裁の平成13年3月13日に出された判例があります。

交通事故と医療過誤が重なったため、幼い被害者が死亡したという痛ましい事件です。

  1. 当時6歳の男の子Aが、1人で自転車に乗って、信号機のない交差点に進入しました。
  2. そこへ丁度、タクシーを運転していたBが、減速せずに交差点に進入し、Aをはねてしまいました。
  3. すぐに救急車で病院に搬送されたのですが、診察した医師Cは、Aの意識がはっきりしていて「タクシーと軽く衝突した」というので、歩行中の軽微な事故だと考えて、駆けつけてきた親と一緒に家に帰しました。
  4. ところが、帰宅後、Aは嘔吐(おうと)した後、いびきをかいて眠ってしまいました。
  5. その後、Aにけいれんが起きるなど容体が悪化しました。あわてて、救急車で病院へと急ぎましたが、間に合わず、Aは亡くなってしまいました。

事故と治療

Aは、交通事故と医療過誤の両方によって、死亡してしまいました。

詳しく言うと、Aが眠っていると思って様子をみていた親にも、過失が認められています。

医師Cは、Aを助けることは、できなかったのでしょうか?

何が問題?

Cは、Aの話を聞いて、外傷が軽微であったこともあり、簡単な検査しか、しませんでした。

加害者の運転手Bは、Aと一緒に病院に来ていたのに、CはBから話を聞くこともしませんでした。

その結果、Cは、Aが歩行中の軽微な事故だ、と判断したのでした。

判決では

誰に問題

最高裁判所は、AをはねたBと同様に、軽微な事故だと判断して治療や注意を怠った医師Cにも、Aの死亡につき責任があると、判断しました。

Aは、外見上では分からなかったけれど、実は「頭がい外面線状骨折」が生じていて、「硬膜動脈損傷を原因とする硬膜外血しゅ」により、死亡したのでした。

つまり、脳出血が起きていたため、嘔吐があり、傾眠状態になり眠っていたように見えたのでした。

語り手は

この誤診を、「信頼できない語り手」という面から、考えてみたいと思います。

医師Cが、事情を聞いたのは、被害者のAからだけでした。

この語り手Aの言うことは、信頼できるのでしょうか?

Aは、6歳の子どもで、交通事故の被害者です。

Aの話は、まさに「信頼できない語り手」なのです。

このように、「信頼できない語り手」とは、相手を騙そうとして故意に嘘をつく人ばかりではありません。

その「語り手」はなぜ信頼できない?

被害者

交通事故の被害者は、自分がどのような目にあったか、何が起きたか、はっきりと自覚できていません。

さらに、事故直後は、痛みや恐怖で、混乱しているのです。

そのうえ、この事件は、まだ6歳の子どもです。

Cは、このAの話だけをもとに、軽微な事故だと判断したのは誤りでした。

頭を打った可能性を考えるべきでした。

少なくとも、一緒に来ていた加害者の話も聞くべきだったでしょう。

もちろん、警察ではないので、多くの関係者の尋問をすることは無理だと思いますが、少なくとも歩行中の事故ではなかったことが、Bの話を聞けば分かったはずです。

加害者

加害者も、信頼できない語り手です。

自分の責任が問われるのだから、責任を軽くしようと、意識的にしろ無意識的にしろ、バイアスがかかります。

加害者自身も、事故の前後をよく覚えていないこともあります。

きちんと覚えていれば、事故を防ぐことができたでしょうから。

信頼できる語り手は?

交通事故にあって「信頼できる語り手」はだれでしょうか?

それは、第三者である目撃者です。

だから、「目撃者捜し」が行われているのです。

最近は、車に取り付けたドライブレコーダーによって、事故状況が証明されることもあります。

目撃者がいなくても、話を総合すれば、真実により近づいていくことができます。

どうすれば良かった?

医師は、最悪の場合を想定して、検査や治療を検討すれば良かったのでしょうか?

しかし、いつも最悪の事態を想定して万全を期すと、治療が滞ってしまいます。

どうすれば、良かったのでしょうか?

最高裁は、次のように指摘します。

「交通事故により頭部に強い衝撃を受けている可能性のあるAの診療に当たったC医師は、外見上の傷害の程度にかかわらず、当該患者ないしその看護者に対し、病院内にとどめて経過観察をするか,仮にやむを得ず帰宅させるにしても,事故後に意識が清明であってもその後硬膜外血しゅの発生に至る脳出血の進行が発生することがあること及びその典型的な前記症状を具体的に説明し、事故後少なくとも6時間以上は慎重な経過観察と、前記症状の疑いが発見されたときには直ちに医師の診察を受ける必要があること等を教示、指導すべき義務が存した」

つまり、しばらくは病院で経過観察するために残ってもらうか、具体的な注意を与えて帰宅させるか、だというのです。

頭を打ったときは、軽く考えないで、安静にして様子をみることが大切ですね。

貴方が他人の話を聞くときも信頼できるか考えてみましょう。

【知れば騙されない】信頼できない語り手~叙述トリックとは?

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